CPRA news Review

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アジア地域の実演家権利管理団体育成支援について

芸団協CPRA 法制広報部

芸団協CPRAでは創設当初より文化庁やWIPOに協力し、アジア地域における実演家権利管理団体育成支援を行ってきた。また2010年度からは、アジア地域の団体から研修生を受け入れ、独自の実務研修を行っており、来年度からはSCAPR※1と連携し、より体系立てた支援を行うことを目指している。
独自の実務研修開始から10年目を迎える今、これまでの歩みと成果を振り返るとともに、課題や今後の見通しについてまとめる。

アジア地域への期待

芸団協CPRAと海外団体との交流は、1998年SCAPRに正会員として加盟してから本格的に始まった。現在では31か国41団体と双務契約を締結し、それぞれの国で徴収した使用料を相互に分配している(表1参照)。ただし、締結相手には欧米の団体が多いこともあり、海外への分配が海外からの徴収を上回る状態が続いている。これには、たとえば海外には貸レコードビジネス自体がなく、一方的に使用料を分配するのみといった事情もある。
一方、JASRAC(日本音楽著作権協会)の状況をみると※2、2017年度の海外入金トップ10にアジアから3か国・地域が入っている。さらに、11位中国、12位マレーシア、17位シンガポールと続いており、東南アジア諸国も含めてアジアにおける利用増進が窺える(表2参照)。アジア地域からJASRACへの入金は、2013年度は1億2,400万円だったところ2017年度は1億5,700万円と約25%増加している。
法制度に関して、アジアではカラオケや飲食店におけるレコードの利用について、著作権者のみならず著作隣接権者にも権利を付与している国が多く、管理制度が整えば、徴収額増加も期待しうる。

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アジア地域の現状と協力支援

アジア諸国では、既にローマ条約やWPPTに加盟し、放送二次使用料制度等を有するとともに実演家の権利管理団体が存在する国もある。一方、国際条約に未加盟であるなど権利保護が不十分な国もある(表3参照)。
そこで、WIPOや政府間の連携によって、ローマ条約やWPPTへの加盟の働きかけがなされるとともに、各国の法制度が整い、実演家の権利管理団体が設立されることが先ずは重要であり、芸団協CPRAは、WIPOや文化庁による各国知財当局職員らへの研修に積極的に協力してきた。

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実務研修の実績と課題

一方、芸団協CPRAによる独自の実務研修は、韓国FKMPと2010年の双務契約締結を機に始まった。FKMPとは5年間にわたり、職員の交換研修も行い交流を深めつつ、芸団協CPRAからデータ管理や分配計算方法など細部に及ぶ研修を行った。その結果、FKMPは2012年から国内分配、2014年には海外分配を開始している。また2017年に研修を実施したインドISRAも翌年から海外徴収分配を開始するに至った。
研修は一年に一回、団体職員二、三名を招聘して一週間程度かけ実施している。日本の集中管理制度や芸団協CPRAの組織運営にはじまり、利用者との交渉、分配計算方法、委任者管理、海外団体との契約による徴収分配等といった業務毎に、各部署の担当者が専門的な講義を行う一方、研修を通して海外業務課の職員がサポートにあたることで、研修生の理解度を確かめつつ、訪れる団体の成熟度に合わせた研修を実施している。研修生の中には若い職員も多く、熱心に質問や意見交換をし、多くの知見を持ち帰っている。
しかしながら、日本との法制度の違いもさることながら、文化や産業構造の違い、また今日では国境を超えたデジタル配信サービスがすでに主流である等といった時代背景の違いもある。芸団協CPRAの発展に裏付けられた知見があっても必ずしも団体運営が容易に軌道に乗るとは限らず、資金難に陥り運営に苦労するケースも多い。芸団協CPRAとしても、研修を修了した団体と交流を継続し、支援する必要があるだろう。

今後の展望

近年、研修を受けた団体からの評判の声も広まり、SCAPRも芸団協CPRAの活動に興味を示している。
SCAPR内に設置されている開発協力ワーキンググループは、支援対象地域を中南米、アフリカ、アジアと3つに分け管理しており、アジアを担当する理事団体イギリスPPLに協力するかたちで、芸団協CPRAは新たな枠組みによる支援活動も視野に入れている。すでに昨年11月にベトナムのハノイで11か国から21名の参加者を集めて開催された地域著作権研修の講師として要請を受け、海外業務課・小島職員が参加したところである。


【海外徴収分配委員会 安部次郎委員長コメント】

アジア地域における音楽市場の成長規模を鑑みると、日本のコンテンツおよびそれに含まれる実演の利用増が期待でき、そのためには適正かつ衡平な使用料等の徴収のための相互の権利管理が必要となる。しかしながらアジアにおいて放送二次使用料制度や実演家の報酬請求権を有する国はいまだ限られており、実演家の権利を管理する団体を持つ国についていえば日本を含めて8か国しかない。すなわち各国が、①著作権にかかる法整備、②法に基づく団体による権利管理制度の導入、③団体による権利処理の実務、の3つのフェーズのいずれかにおいて開発途上であり、それぞれの状況に応じた支援が緊急の課題といえよう。
海外徴収分配委員会では2010年度より上記③に特化した研修を開始し、これまでに韓国、マレーシア、インド、フィリピン、ベトナムからの研修生を受け入れた。韓国とインドについてはすでに芸団協CPRAとも双務契約を締結し使用楽曲データに基づく徴収分配が開始できるようになっているが、他の国については実務を理解し委任者や管理楽曲のデータベース化などを進める一方で、利用者やレコード製作者との交渉が難航するなどのため、いまだ安定した国内徴収分配が実現していないという厳しい現状にある。
そこで芸団協CPRAはSCAPRの開発協力ワーキンググループと連携し、来年度以降は上述の①、②、③をより多角的かつ横断的に支援できるよう検討を開始したところである。
海外徴収分配委員会では従前より海外団体との契約に基づく徴収業務の強化に取り組んでいるが、この中には今すぐ対応すべき課題もあれば、長期的に見た徴収額の増加という課題もあり、アジア地域の団体育成支援事業は後者に紐づく重要な課題の1つであると考えられる。したがって引き続き本事業に積極的に取り組んでまいりたい。



※1:実演家権利管理団体協議会(Societies' Council for the Collective Management of Performers' Rights)
※2:2019年1月23日JASRACシンポジウム「音楽コンテンツの海外展開と著作権―アジア・太平洋地域を中心に―」資料より